高齢の親が一人暮らしをしている場合の支援制度
― 認知機能の低下が心配なときの法的・制度的選択肢 ―
次のようなご相談を受けることがあります。
「田舎で一人暮らしをしている年老いた母が、最近物忘れがひどくなっています。
銀行でお金を下ろす際に住所や電話番号が分からなくなったり、
自分で購入した物を忘れてしまうこともあります。
一緒に住むことは望んでいませんが、詐欺や悪質商法が心配です。
地域で信頼できる制度はないでしょうか?」
高齢者の生活を支える代表的な制度としては、
- 介護保険制度
- 成年後見制度
- 日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)
があります。
この相談事例のように、
「判断能力が低下しつつあるが、まだ完全に失われてはいない」
という段階では、後者二つの制度が検討対象になります。
1.日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)とは
日常生活自立支援事業は、社会福祉法に基づき、
各地域の社会福祉協議会が実施している支援制度です。
主な支援内容
代表的なサービスには、次のようなものがあります。
① 日常的金銭管理サービス
- 年金・各種給付金の受給手続き
- 税金・公共料金・医療費等の支払い
- 日常生活に必要な範囲での預貯金の払戻し・預入れ
② 書類等の預かりサービス
- 年金証書
- 通帳・キャッシュカード
- 不動産の権利証
- 契約書類
- 実印・銀行印 など
これらは、社会福祉協議会が金融機関の貸金庫等で
適切に保管します。
利用要件の重要なポイント
この制度を利用するためには、
本人に契約締結能力があること
が前提条件となります。
そのため、
- 認知症が重度に進行している場合
- 契約内容を理解できない場合
には、日常生活自立支援事業を利用することはできません。
利用の流れと費用
- 社会福祉協議会での無料相談
- 利用の可否判断
- 本人との契約締結
- 専門員による支援計画の作成
- サービス提供開始
なお、公的制度ではありますが無料ではなく、
利用内容に応じた費用負担があります。
2.成年後見制度との違い
成年後見制度は、民法に基づく制度であり、
- 判断能力が不十分または欠けている場合
- 家庭裁判所の審判により開始
されます。
成年後見制度の特徴
- 契約ではなく「裁判所の決定」による制度
- 預貯金管理、不動産処分、契約行為など
広範な法律行為が可能 - 原則として、本人の判断能力が回復しない限り継続
一方で、
- 手続が重い
- 家庭裁判所の監督がある
- 本人の自由度が下がる
といった側面もあります。
3.どちらを選ぶべきか ― 実務上の考え方
大まかな判断基準としては、次のように整理できます。
| 判断能力 | 適した制度 |
|---|---|
| 判断能力が概ね保たれている | 日常生活自立支援事業 |
| 判断能力が不十分・低下が進行 | 成年後見制度 |
本件のように、
- 普段はしっかりしている
- 物忘れはあるが意思疎通は可能
という段階であれば、
まずは日常生活自立支援事業を検討するのが現実的でしょう。
4.近年注目されている「家族信託」について
近年では、成年後見制度の代替・補完として
**家族信託(民事信託)**を利用するケースも増えています。
ただし、
- 契約時点で十分な判断能力が必要
- 設計を誤ると将来トラブルになる
- 相続・税務との関係も考慮が必要
といった点から、
専門家の関与が不可欠な制度といえます。
5.早めの相談が何より重要です
判断能力の低下は、ある日突然明確になるものではありません。
利用できる制度は、
「いつ相談したか」
「どの段階で動いたか」
によって、大きく変わります。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、
選択肢が成年後見制度しか残らない
というケースも少なくありません。
不安を感じた段階で、
地域の社会福祉協議会や、相続・後見に詳しい専門家へ
早めに相談されることをお勧めします。
