限定承認とは何か
― 相続債務が不明な場合の判断ポイント ―
相続のご相談を受けていると、次のような質問を受けることがあります。
「亡くなった父は不動産を所有していましたが、借金もあるようです。
相続財産と債務のどちらが多いのか分かりません。
限定承認を選択した方が得なのでしょうか?」
相続が開始すると、相続人は原則として、
単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択することになります。
1.選択期限は「原則3か月」
民法915条により、相続人は、
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内
に、相続の承認または放棄をしなければなりません。
この期間(いわゆる「熟慮期間」)内に、
まず行うべきは 相続財産と相続債務の調査 です。
2.限定承認とはどのような制度か
限定承認とは、民法922条以下に規定された制度で、
相続によって取得した財産の範囲内でのみ、
被相続人の債務および遺贈を弁済すれば足りる
という効果を持ちます。
つまり、
- 債務が財産を上回る場合でも
- 相続人が自己の固有財産で弁済する必要はない
という点で、相続人を保護する制度です。
3.限定承認は「全相続人共同」で行う必要があります
限定承認について、実務上特に注意が必要なのがこの点です。
民法923条により、
限定承認は、相続人全員が共同して行わなければならない
と定められています。
一人でも反対する相続人がいる場合、
限定承認を選択することはできません。
この点が、限定承認が実務上あまり利用されない
大きな理由の一つでもあります。
4.家庭裁判所への申述が必要です
限定承認は、相続放棄と同様に、
- 家庭裁判所へ
- 熟慮期間内に
- 所定の申述書を提出
する必要があります。
単なる意思表示や書面の作成だけでは足りず、
裁判所の手続きを経なければ効力は生じません。
5.税務上の注意点(みなし譲渡課税)
限定承認を選択する場合、
税務上の影響を必ず考慮する必要があります。
相続税法および所得税法の取扱い上、
- 相続財産に含まれる不動産・有価証券などについて
- 被相続人から相続人へ移転し
- その後、債務弁済のために処分した場合
相続開始時に譲渡があったものとみなされ、
譲渡所得税(いわゆる「みなし譲渡課税」)が課されることがあります。
思わぬ税負担が生じる可能性があるため、
事前の税務的検討が不可欠です。
6.手続中に延滞金等が発生するリスク
限定承認では、
- 相続財産の管理
- 財産目録の作成
- 債権者への公告
- 換価処分
といった手続が必要になります。
これらに時間を要する間に、
- 利息
- 遅延損害金
- 固定資産税等の公租公課
が加算される可能性もあります。
7.限定承認後に「相続放棄」へ変更はできません
一度、限定承認を選択すると、
- 後から相続放棄に変更することはできません
- 債務超過が判明しても、その判断は覆りません
また、理論上は限定承認から単純承認への変更は可能ですが、
債務超過が明らかであるにもかかわらず
あえて単純承認を選択する合理性は、通常ありません。
8.限定承認は「慎重に検討すべき制度」
限定承認は、制度上は相続人保護のために設けられていますが、
- 全相続人の同意が必要
- 手続が煩雑
- 税務上のリスクがある
といった理由から、実務では相続放棄が選択されるケースが多いのが現状です。
限定承認を選択するかどうかは、
- 財産と債務の内容
- 相続人間の関係
- 税務上の影響
を総合的に検討したうえで、
専門家と相談しながら判断することが重要です。
