親が遺言書を書いてくれない場合の考え方と法的限界
「遺言書を書いてほしいと親に話しているのですが、なかなか書いてくれません。どうしたらよいでしょうか。」
これは、相続相談の現場で非常に多く寄せられる質問の一つです。
中には、遺言書の作成を勧めたことで
「財産目当てではないか」
と、思いもよらぬ誤解を受け、親子関係がぎくしゃくしてしまったというケースも少なくありません。
遺言書は「本人の自由意思」によるもの
まず大前提として、遺言書は本人の自由な意思に基づいて作成されるものです。
この点は民法の基本原則であり、第三者が強制したり、代わりに作成したりすることはできません。
民法第960条は、
「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」
と定めており、遺言は厳格な要式行為です。
したがって、本人が「書かない」と判断している以上、たとえ家族が将来の紛争を予見していたとしても、法的にできる対応は存在しません。
高齢になるほど遺言作成は心理的・身体的負担になる
実務上、高齢になるにつれて次のような事情が重なります。
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物事を考えること自体が億劫になる
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「自分が困るわけではない」という意識
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死後の話題を避けたい心理的抵抗
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そのうちやればよい、という先延ばし
結果として、遺言書の必要性は理解していても、行動に移せないという状況が多く見受けられます。
遺言能力を失った場合の重大なリスク
特に注意すべきなのは、
認知症等により遺言能力を欠く状態になると、遺言書は作成できなくなるという点です。
遺言には、作成時に
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自己の財産状況
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相続人の範囲
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遺言内容の意味
を理解できる遺言能力が必要とされており(判例・実務上の確立した考え方)、
これを欠く状態で作成された遺言は無効となります。
実際に、
「そのうち書くと言っている間に体調が悪化し、結果として遺言が残せなかった」
というケースは決して珍しくありません。
家族ができる現実的な対応策
残念ながら、本人がその気にならない限り、遺言書を作成させる法的手段はありません。
しかし、次のような「間接的な働きかけ」は有効な場合があります。
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専門家が主催する遺言書セミナーへの参加を勧める
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相続トラブルの実例を、第三者の話として伝える
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家族の不安や想いを、感情的にならず文章で伝える
