事実婚(内縁関係)と相続 ― 法律が及ばない領域のリスク ―
一般的な夫婦と変わらない生活を送っているものの、
**あえて籍を入れていないご夫婦(事実婚・内縁関係)**は、
近年、決して珍しい存在ではありません。
第三者からは
「なぜ入籍しないのだろう?」
と思われがちですが、実際には、互いを尊重し合い、
穏やかな関係を築いているケースも多く見受けられます。
法律上、事実婚のパートナーは「相続人」ではない
しかし、相続の場面になると状況は一変します。
平均寿命や統計的傾向から、仮に男性が先に亡くなった場合、
たとえ長年連れ添ったパートナーであっても、
戸籍上の配偶者でなければ法定相続人にはなりません
(民法887条以下)。
たとえば、
-
自宅不動産が男性名義
-
預貯金・有価証券もすべて男性名義
である場合、
それらはすべて男性の法定相続人
(兄弟姉妹、既に亡くなっていれば甥・姪)に帰属します。
事実婚のパートナーは、
-
自宅に住み続ける権利
-
想い出の品を受け取る権利
いずれも、原則として認められません。
「相続人ではない」からです。
判例はあるが、一般化できるものではない
内縁関係については、
一定の事情のもとで保護を認めた裁判例も存在します。
しかしそれらは、
-
共同生活の実態
-
財産形成への寄与
-
特別な事情
などを総合的に考慮した例外的判断であり、
誰にでも当てはまるものではありません。
実務上は、
「事実婚のパートナーに相続財産は原則として渡らない」
と考えておく方が安全です。
事実婚を選ぶ自由と、相続での無防備さ
事実婚は、
-
婚姻制度に縛られない自由
-
個人の価値観を尊重できる関係
という側面を持ちます。
しかし同時に、
法律の保護を受けられない関係でもあります。
自由であることは、
相続の場面では「無防備」であることを意味します。
解決策は「遺贈」を明確にすること
このようなケースで、
男性が生前に、
「自分の全財産を○○に遺贈する」
と記載した遺言書を残していれば、
状況は大きく変わります。
事実婚のパートナーであっても、
遺贈によって財産を取得することが可能です
(民法964条)。
特に、紛争防止の観点からは
公正証書遺言の作成が強く推奨されます。
税務上の取扱いについて(※注意点あり)
遺贈によって取得した財産は、
原則として相続税の課税対象となり、
基礎控除(現行法:
3,000万円+600万円×法定相続人の数)の枠内であれば
課税されません。
ただし、
配偶者控除(1億6,000万円等)は適用されません。
この点は、法律婚との大きな違いであり、
事前に理解しておく必要があります。
まとめ
-
事実婚のパートナーは法定相続人ではない
-
原則として相続財産は一切取得できない
-
判例はあるが、例外的・限定的
-
確実に財産を残すには「遺贈」が不可欠
-
公正証書遺言による明確な意思表示が最善策
最後に
法律に縛られない事実婚を選ぶこと自体は、
個人の自由であり、尊重されるべき選択です。
しかし、
その自由の先にある現実を見据えて備えることは、
入籍の有無にかかわらず、
パートナーに対する思いやりであり、
最低限の責任とも言えるのではないでしょうか。
事実婚だからこそ、
「何もしなくても大丈夫」ではなく、
「何もしなければ何も守られない」
――それが相続の現実です。
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