認知症と遺産分割協議書

相続人に認知症の方がいる場合の遺産分割と法的対応

相続が開始すると、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約等のために、
遺産分割協議書の作成が必要となる場合があります。

ところが、相続人の中に認知症の方(多くは配偶者や父母、祖父母など)が含まれている場合、
そもそも遺産分割協議書を有効に作成できるのかという点が問題となります。


■ 認知症の方は遺産分割協議に直接参加できない

遺産分割協議は、
相続人全員が参加し、その意思表示により成立する法律行為です。

そのため、

  • 判断能力(意思能力)がない、または著しく低下している方が
  • 内容を理解しないまま署名・押印した場合

その遺産分割協議は、

  • 無効となる
  • または後日取消しを受ける

おそれがあります。

したがって、認知症の方を、
判断能力のある相続人と同様に遺産分割協議書へ押印させることはできません。


■ 成年後見制度の利用が必要となるケース

相続人の一人が認知症である場合には、
原則として、

  • 家庭裁判所に申立てを行い
  • 成年後見開始、保佐開始、補助開始等の審判を受け
  • 選任された成年後見人等が、本人に代わって遺産分割協議に参加

する必要があります
(民法第7条、第11条、第15条等)。

この手続きは時間と手間がかかりますが、
法的に有効な遺産分割を行うためには避けられない対応です。


■ 実務上の注意点:後見人が関与する場合の制約

成年後見人等が遺産分割協議に参加する場合、
後見人は、

  • 本人(認知症の方)の利益を最優先に考慮する義務

を負っています。

そのため、

  • 本人に不利な内容
  • 他の相続人の都合を優先した分割

は、原則として認められません。

特に、認知症の方が、

  • 自宅で療養・生活している
  • その不動産が居住の本拠となっている

ような場合には、
不動産を処分・移転する内容の遺産分割は、事実上困難となることが多いのが実情です。


■ 実務で多いもう一つの対応パターン

実務上は、不謹慎に感じられるかもしれませんが、

認知症の状態にある父または母が亡くなった後に、
残る相続人全員で遺産分割を行う

という対応が取られるケースも少なくありません。

これは、

  • 成年後見制度を利用すると、
    事実上、柔軟な遺産分割ができなくなる
  • 結果として、相続手続きが長期化・複雑化する

といった事情によるものです。

■ まとめ

  • 認知症の方は遺産分割協議に直接参加できない
  • 判断能力を欠く相続人が参加した協議は無効・取消しのリスクがある
  • 原則として成年後見制度の利用が必要
  • 後見人が関与する場合、本人に不利な分割は不可
  • 居住用不動産の処分は特に困難
  • 状況により相続開始時期を見極める判断も必要

相続人に認知症の方がいる場合の相続手続きは、
通常の相続よりもはるかに慎重な対応が求められます。

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