相続相談で必ず話題になる「贈与」の混乱
相続のご相談を受けていると、非常に高い確率で「生前贈与」の話題が出てきます。
詳しくお話を伺うと、相談者の方が混乱している原因の多くは、贈与税の課税方式が2種類存在することにあります。
その2つとは、
- 暦年課税
- 相続時精算課税
です。この時点で「もう勘弁してほしい」と感じられる方も少なくありませんが、相続実務においては避けて通れない重要なポイントです。
贈与税の原則は「暦年課税」
まず押さえておくべき基本は、贈与税の原則は暦年課税であるという点です。
暦年課税とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額から、
- 基礎控除額:110万円
を差し引いた残額に対して贈与税が課税される方式です(相続税法21条の5)。
税率は、課税価格に応じて**10%から最大55%**までの累進税率が適用され、金額に応じた控除額も定められています。
一般に「贈与税は高い」と言われるのは、この累進課税構造によるものです。
相続時精算課税は例外的な制度
これに対して、相続時精算課税は暦年課税の例外的制度と位置づけられます。
相続時精算課税は、
- 生前に贈与を行う
- その贈与分を将来の相続財産に加算して
- 最終的に相続税で精算する
という仕組みを持ち、贈与税と相続税が連動した制度です(相続税法21条の9以下)。
相続時精算課税の仕組みと数字
相続時精算課税を選択した場合、
- 特別控除額:2,500万円(累計)
までは贈与税が課税されません。
この2,500万円を超えた部分については、
- 一律20%の贈与税
が課税されます。
もっとも、ここで納付した贈与税は、贈与者の死亡により相続が開始した際、
- 贈与財産を相続財産に加算し
- 相続税額を計算したうえで
- すでに納付した贈与税を控除(還付または不足分を納付)
する形で精算されます。
利用要件(※年齢要件は改正あり)
相続時精算課税を利用できるのは、次の要件を満たす場合に限られます。
- 贈与者:60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者:18歳以上の子または孫
※2014年当時は「65歳以上の親・20歳以上の子」という要件でしたが、2022年の民法改正(成年年齢引下げ)等に伴い、年齢要件が引き下げられています。
また、父・母それぞれから相続時精算課税を選択することも可能です。
一度選択すると撤回できない点に注意
相続時精算課税の最大の注意点は、
一度選択すると、その贈与者との間では暦年課税に戻ることができない
という点です。
制度選択は不可逆であり、将来の相続税負担を含めた長期的視点での判断が不可欠です。
また、相続時精算課税を利用する場合、
- 贈与税が発生しない場合であっても
- 必ず贈与税の申告書を提出する必要があります
申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。
近年の重要な改正点(2024年以降)
近年の税制改正により、
- 相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が新設
- 基礎控除内の贈与については相続財産への加算不要
といった見直しが行われています。
これにより、制度の使い勝手は一定程度改善されましたが、
- 暦年課税との併用可否
- 将来の相続税への影響
については、より慎重な検討が必要となっています。
贈与は「節税ありき」で考えるべきではない
暦年課税・相続時精算課税のいずれを選択すべきかは、
- 財産の内容・規模
- 相続人の構成
- 将来の相続税の見込み
によって大きく異なります。
一般論として「贈与税は高いから対策が必要」と短絡的に判断するのではなく、相続全体を見据えた制度選択が重要です。
生前贈与は、適切に行えば有効な相続対策となりますが、誤った選択をすると、かえって税負担が増えることもあります。
まずは、相続・税務の両面に精通した専門家へ相談されることを強くお勧めします。
