相続人の所在が不明な場合、相続手続きはどうするのか
相続手続きを進めようとしても、相続人の一部について所在が不明であるというケースは、実務上決して珍しくありません。
たとえば、
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戸籍調査により相続人であることは判明している
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住民票や戸籍の附票を追っても、現在の住所が判明しない
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以前の住所地を訪ねても、すでに転居しており行方が分からない
といった場合です。
このようなとき、相続手続きを放置したままにすることはできません。法律は、所在不明者がいる場合でも相続手続きを進めるための制度を用意しています。
不在者と不在者財産管理人(民法25条以下)
所在不明の相続人は、法律上「不在者」に該当します。不在者とは、
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従来の住所・居所を去り
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現在の生死や所在が明らかでない者
をいいます(民法25条)。
このような不在者が財産を有している場合、家庭裁判所は、利害関係人の申立てにより、不在者財産管理人を選任します(民法25条1項)。
相続手続きにおいては、所在不明の相続人が有する相続分を保全しつつ、他の相続人による手続きを可能にするため、この制度が用いられます。
相続人が複数いる場合の実務対応
たとえば、相続人が3名いるものの、そのうち1名が所在不明であり、遺産である不動産について**相続登記(名義変更)**を行う必要がある場合を考えます。
この場合、所在が判明している2名の相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできません。相続人全員の関与が必要だからです(民法907条)。
そこで、次の手続きを踏むことになります。
① 不在者財産管理人選任の申立て
まず、家庭裁判所に対し、所在不明の相続人について不在者財産管理人選任の申立てを行います。申立人は、他の相続人などの利害関係人です。
② 遺産分割協議と権限外行為許可の申立て
不在者財産管理人は、原則として財産の保存行為・管理行為のみを行うことができ、
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遺産分割協議への参加
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不動産の処分・名義変更
といった行為は「権限外行為」に該当します。
そのため、
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他の相続人2名で作成した遺産分割協議書の内容について
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不在者本人に不利益とならないか
を前提に、家庭裁判所へ権限外行為許可の申立てを行います(民法28条)。
③ 許可審判後の相続登記
家庭裁判所が内容の相当性を認め、許可審判が確定してはじめて、
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遺産分割協議が有効に成立し
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不動産の相続登記(名義変更)
が可能となります。
「これで全て解決」とはならない点に注意
不在者財産管理人制度を利用して相続登記が完了したとしても、それですべてが終わるわけではありません。
不在者については、
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その後、生存が確認される可能性
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あるいは、死亡していたことが後日判明する可能性
が常に残ります。
特に死亡が確認された場合には、改めて相続が開始し、新たな相続関係に基づく手続きが必要となることもあります。
この意味で、不在者財産管理人制度による対応は、あくまで暫定的・保全的な措置であり、「最終的な解決」とは異なる点に注意が必要です。
災害時に限らず、実務では頻繁に生じる問題
所在不明の相続人というと、
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大規模災害
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事故・事件
など、特殊な状況を想像されがちです。
しかし実務上は、
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長年音信不通の親族
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海外転居後に連絡が取れなくなったケース
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家族関係が希薄で所在を誰も把握していない場合
など、日常的に遭遇する問題です。
専門家への早期相談の重要性
所在不明の相続人がいる場合、
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手続きが複雑
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時間と費用がかかる
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財産の内容によっては、費用対効果が問題となる
といった事情から、途中で手続きを断念される方も少なくありません。
もっとも、事案ごとに最適な手法(不在者財産管理人・失踪宣告・遺言の有無等)は異なります。
