生前贈与と特別受益、遺言による持戻し免除の考え方
あまり例がないように思われがちですが、
実務の相談の場では、非常によく出てくるテーマの一つです。
被相続人(財産を残す人)から、生前に
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マイホーム購入資金
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結婚資金
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開業資金
などの援助を受けている場合、
その相続人は、**「特別の利益」を受けた者として「特別受益者」**に該当する可能性があります
(民法第903条)。
■ 特別受益と「持戻し」の法的仕組み
特別受益に該当する生前贈与がある場合、
その贈与は「遺産の前渡し」として評価され、
**相続開始時に、贈与額を相続財産に加算(持戻し)**したうえで、
各相続人の相続分を算定するのが原則です。
これを**「特別受益の持戻し」**といいます(民法第903条第1項)。
■ 生前贈与と税務申告について
生前贈与は、
贈与契約が成立していれば、税務署への申告がなくても法律上は有効です。
ただし、
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年間110万円を超える贈与
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相続時精算課税制度を選択する贈与
これらの場合には、贈与税の申告が必要となります。
申告を怠った場合、
贈与自体が無効になるわけではありませんが、
追徴課税・加算税・延滞税の対象となる可能性があります。
なお、
贈与税率が一律20%になるのは、相続時精算課税制度の超過部分のみであり、
通常の贈与税は累進課税です。
■ 遺言による対策:「特別受益の持戻し免除」
「生前の援助は考慮せず、相続では公平に分けたい」
あるいは
「生前贈与とは別に、遺産分割を行いたい」
このような意思を実現するための法的手段が、
**遺言による『特別受益の持戻し免除』**です。
被相続人が遺言で
生前に行った贈与について、特別受益の持戻しを免除する
と意思表示することで、
相続時に生前贈与を考慮しない遺産分割が可能となります
(民法第903条第3項)。
■ 遺留分との関係(2019年改正反映)
もっとも、
特別受益の持戻し免除をしても、遺留分を侵害することはできません。
2019年の民法改正により、
遺留分は「遺留分侵害額請求権(=金銭請求権)」となりました
(民法第1046条以下)。
遺留分を侵害している場合、
相手方から請求があれば、金銭での支払い義務が生じます。
なお、
遺留分は請求されなければ問題とはなりません。
遺留分侵害額請求には、
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相続開始および侵害を知った時から1年
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相続開始から10年
という時効があります(民法第1048条)。
実務上は、
内容証明郵便など、発送日が客観的に確認できる方法で請求することが重要です。
■ 家族信託・遺言信託という現代的な選択肢
近年では、
信託法の整備・実務の定着により、家族信託(民事信託)を活用するケースも増えています。
家族信託や遺言信託を利用することで、
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生前から相続後まで一貫した財産管理
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紛争予防を重視した設計
が可能となるため、
遺言書と併せて検討する価値の高い手法といえます。
【関連事項】生前贈与制度の整理(現行法)
1.暦年贈与(通常贈与制度)
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年間110万円まで非課税(基礎控除)
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超過部分は累進課税
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柔軟だが、相続時に持戻し対象となる可能性あり
2.相続時精算課税制度
制度の趣旨
生前贈与と相続を一体として課税関係を整理する制度
非課税枠
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贈与者1人につき累計2,500万円まで非課税
税率
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超過部分に一律20%課税
相続時
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生前贈与分を相続財産に加算し、相続税を計算
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支払済み贈与税は控除
適用対象者(現行)
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贈与者:60歳以上の父母または祖父母
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受贈者:18歳以上の子・孫
※年齢要件は改正済み(2014年当時と異なります)
注意点
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一度選択すると暦年贈与へ戻れない
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慎重な制度選択が必要
■ まとめ
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生前贈与は、相続時に「特別受益」として問題化しやすい
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遺言による持戻し免除は有効だが、遺留分への配慮が不可欠
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税務・民事の双方を見据えた設計が必要
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家族信託を含め、複数制度の組み合わせが有効な場合も多い
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