相続させない遺言について

問題行動のある子を相続人から外すことはできるのか

― 相続人廃除という制度について ―

あるご夫婦から、次のようなご相談を受けることがあります。

子どもが3人いますが、そのうちの1人が中学生の頃から非行に走り、家庭内暴力を繰り返してきました。
卒業後も定職に就かず、ギャンブルに明け暮れ、私たち夫婦だけでなく、兄弟にまで金銭を無心する生活が続いています。

このまま私たちが亡くなった場合、残された兄弟やその配偶者、さらには孫たちにまで迷惑をかけるのではないかと心配です。
親の遺産を当てにするのではなく、自立した生活をしてもらうためにも、この子を相続人から外すことはできないでしょうか。

このようなケースで検討される制度が、**相続人廃除(そうぞくにんはいじょ)**です。


相続人廃除とは何か(法的根拠)

相続人廃除とは、被相続人に対して著しい非行があった推定相続人を、相続権および遺留分の権利から除外する制度です。

この制度は、民法第892条に規定されています。

民法第892条(推定相続人の廃除)
被相続人は、推定相続人が次の各号のいずれかに該当するときは、家庭裁判所にその廃除を請求することができる。
1.被相続人に対して虐待をしたとき
2.被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき
3.その他、著しい非行があったとき

ご相談のように、長年にわたる家庭内暴力、継続的な金銭の無心や浪費行為などが認められる場合、「その他の著しい非行」に該当する可能性があります。


廃除は自動的に認められるわけではない

重要な点として、
相続人廃除は、申請すれば必ず認められる制度ではありません。

家庭裁判所は、
・行為の内容
・継続性、悪質性
・被相続人との関係性
・改善の可能性
などを総合的に考慮し、廃除に値するかどうかを慎重に判断します。

そのため、実際の手続きでは、
・暴力や非行の事実を裏付ける資料
・第三者の証言
・経過を示す記録
など、一定の立証が求められます。


遺言による相続人廃除も可能

相続人廃除は、生前に家庭裁判所へ申し立てる方法のほか、
遺言によって行うことも可能です(民法第893条)。

民法第893条(遺言による廃除)
被相続人は、遺言によって、推定相続人の廃除をすることができる。

ただし、遺言で廃除の意思を表示した場合でも、
相続開始後に、遺言執行者が家庭裁判所へ廃除の申立てを行う必要があります。
遺言を書いただけで直ちに廃除が確定するわけではありません。


実務上の注意点と公正証書遺言のすすめ

相続人廃除の制度は、条文だけを見ると簡単に思えるかもしれませんが、
実際に裁判所で認めてもらうには相応の準備と専門的判断が必要です。

特に遺言で廃除を行う場合、
・廃除理由の記載が抽象的すぎる
・感情的な表現に終始している
・法的要件を満たしていない
といった理由で、後にトラブルになるケースも少なくありません。

そのため、
相続人廃除を検討する場合には、内容を整理したうえで、公正証書遺言として作成することを強くお勧めします。

公正証書遺言であれば、
・法的要件を満たした形で作成できる
・無効となるリスクを大幅に下げられる
・家庭裁判所での手続きもスムーズになる

といった実務上のメリットがあります。


まとめ

相続人廃除は、
「問題のある相続人を感情的に排除する制度」ではなく、
被相続人と他の相続人を法的に保護するための、例外的かつ慎重に運用される制度です。

検討にあたっては、早い段階で専門家に相談し、
法的要件と将来の相続手続きまで見据えた対応を行うことが重要です。

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