遺留分侵害があった場合の対応を、遺言で指定できるか
遺言によって特定の相続人に多くの財産を承継させた場合、
他の相続人から遺留分の主張がなされることがあります。
では、
遺留分を請求された場合の「対応方法」まで、あらかじめ遺言で定めておくことはできるのでしょうか。
用語と制度の整理(※2019年改正後)
まず、用語を整理しておきます。
かつては
「遺留分減殺請求権」
という表現が用いられていましたが、
民法改正(平成30年改正・2019年7月施行)により、現在は
👉 「遺留分侵害額請求権」(民法1046条以下)
に一本化されています。
この改正により、
-
不動産などの「現物返還」が原則ではなくなり
-
金銭請求が原則
となりました。
遺留分侵害額請求の行使期間
遺留分侵害額請求権は、
-
相続が開始したこと
-
自分の遺留分が侵害されていること
を知った時から 1年以内 に行使する必要があります
(民法1048条)。
逆にいえば、
請求がなされなければ、支払う義務は生じません。
遺留分への対応を遺言で定めることは可能か
結論から言うと、
可能です。
むしろ、
遺留分侵害が想定される場合には、遺言で定めておくべき事項
といえます。
具体的には、遺言によって次のような指定ができます。
-
遺留分侵害額の負担者
-
どの財産を基準に金銭で支払うか
-
複数の財産がある場合の負担順序
-
特定の相続人に金銭負担を集中させるか否か
なぜ「遺言」でなければならないのか
遺留分侵害額への対応方法の指定は、
生前の契約や覚書では行うことができません。
これは、
-
遺留分は相続開始後に具体化する権利であること
-
相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要であること
などから、
遺言という形式によってのみ有効に指定できる
とされているためです。
遺言での記載例(イメージ)
たとえば、遺言書には次のような記載が考えられます。
「もし、長男○○から遺留分侵害額請求がなされた場合には、
その支払は、次男○○が取得する預貯金から行うものとする。」
あるいは、
「遺留分侵害額請求があった場合には、
不動産ではなく、金銭により対応するものとする。」
といった形で、
実務上の混乱を防ぐ指定を行うことができます。この文章は実務で割と使います。
遺言の効力と限界
これらの指定を含む遺言は、
遺言者の死亡時から効力を生じます(民法985条)。
もっとも、
-
相続人全員の合意がある場合
-
遺言で「遺産分割を禁止する」などの制限がない場合
には、
遺言と異なる内容で遺産分割協議を行うことも可能です。
そのため、
遺言に書いた内容が、
必ずしもすべてそのとおり実行されるとは限らない
という点には注意が必要です。
まとめ
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現行法では「遺留分侵害額請求権」が正しい用語
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請求期間は原則1年
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請求がなければ支払義務は生じない
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遺留分への対応方法は遺言で指定できる
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むしろ、紛争予防のためには指定すべき
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ただし、相続人全員の合意により変更される余地は残る
遺留分は、
「請求されてから考える」ものではなく、
「請求された場合を想定して設計しておく」ものです。
遺言の段階でどこまで整理しておくかが、
相続トラブルを防げるかどうかの分かれ目になります。
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