遺言による不動産の分割指定(一筆の土地を分ける場合の実務)
1 「一筆の土地」とは何か
「一筆(いっぴつ)」という表現は、法律用語としてはやや分かりにくいものですが、
実務上は、
登記記録上、1個の土地として扱われている土地
を意味します。
例えば、登記簿上、父名義で1筆として登記されている土地について、
父がその土地を相続財産として子へ承継させる場合を考えます。
この場合、
-
土地全部を特定の相続人に相続させる
-
土地を分けて、複数の相続人に取得させる
という選択肢があり、後者の場合には分筆が問題となります。
2 遺言で一筆の土地を分ける方法は2つある
遺言によって、一筆の土地を複数の相続人に取得させる場合、
実務上は次の2つの方法が考えられます。
(1)生前に分筆登記をしてから遺言する方法
被相続人が生前に、
-
一筆の土地を複数筆に分筆登記し
-
それぞれの土地を特定の相続人に相続させる
という方法です。
例えば、1筆の土地を3筆に分筆し、
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長男にA土地
-
長女にB土地
-
次女にC土地
と指定する遺言を作成します。
この方法は、
-
土地の特定が明確
-
相続開始後の登記実務が極めて安定している
という点で、最も一般的かつ安全な方法といえます。
もっとも、分筆には、
-
測量費用
-
登記費用
-
手続の手間
が発生するため、生前に対応することを負担に感じる方も少なくありません。
(2)遺言で分筆内容を特定する方法
生前に分筆を行わず、
遺言書の中で、将来分筆登記が可能な程度に土地を特定して相続させる方法もあります。
この場合、遺言書には、
-
測量図や図面
-
境界が客観的に特定できる記載
などを添付し、
どの部分を誰が取得するのかが明確に判断できる内容であることが不可欠です。
不動産登記実務上、
この特定が不十分な遺言は、分筆登記の原因として認められません。
そのため、この方法を採用する場合は、
-
内容の正確性
-
記載の客観性
を担保する必要があり、公正証書遺言による作成が強く推奨されます。
3 遺言による分筆指定と登記実務上の注意点
遺言に基づき分筆登記を行う場合、
-
分筆後に土地を取得する相続人
が、原則として登記申請人となります。
ここで重要なのは、
分筆によって土地を取得しない相続人は、
当該分筆登記の申請人にはなれない
という点です。
これは、不動産登記法上、
登記の申請権限は、その登記によって権利を取得・変更する者に限られる
という原則によるものです。
4 遺言執行者がいる場合の取扱い
もっとも、遺言書で遺言執行者が指定されている場合には、話が変わります。
遺言執行者は、
-
遺言の内容を実現する権限
-
相続人に代わって登記手続きを行う権限
を有しており(民法1012条以下)、
遺言執行者名義で分筆登記および相続登記を行うことが可能です。
実務上は、
-
相続人間の利害調整
-
登記手続の円滑化
の観点から、
分筆を伴う遺言では、遺言執行者の指定を行うことが望ましいといえます。
5 まとめ
一筆の土地を遺言で分けることは可能ですが、
-
土地の特定が不十分な遺言
-
登記実務を無視した記載
は、結果として遺言の実現ができないという事態を招きかねません。
実務上は、
-
生前に分筆してから遺言する方法を原則とし
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それが困難な場合には、公正証書遺言+遺言執行者指定
という構成が、最も安全かつ確実です。
不動産を含む遺言の作成にあたっては、
法的有効性だけでなく、「登記できるかどうか」まで見据えた設計が不可欠です。
