再転相続人による相続放棄 ― 実務上の注意点
相続放棄の業務において、実務上は頻繁に起こるものではありませんが、一定数発生する特殊なケースがあります。その代表例が、再転相続(さいてんそうぞく) に関する相続放棄です。
1 再転相続が問題となる典型例
例えば、以下のような家族関係を想定します。
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本人
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父
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祖父
祖父が多額の借金を残して死亡した場合、本来であれば父は祖父の相続人として、財産のみならず借金も承継する立場にあります。
そこで父は、祖父の債務を引き継がないために、相続放棄の手続を行うことを決意し、家庭裁判所への申述準備を進めていました。
ところが、その手続の途中、父が相続放棄を完了しないまま死亡してしまった場合、状況は一変します。
この時点で、父が祖父の相続について放棄をしていない以上、
祖父の相続権は父を経由して、本人へと移転することになります。
このように、先順位の相続人が相続放棄をする前に死亡し、その地位が次順位者に承継される相続を、再転相続といいます。
2 再転相続人の法的立場(民法の根拠)
再転相続については、民法に明文の定義規定はありませんが、以下の条文構造から導かれます。
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民法第896条(相続の一般効)
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民法第915条第1項(相続放棄・限定承認の熟慮期間)
再転相続人は、
「被相続人(祖父)」の相続人の地位を、死亡した相続人(父)から承継した者
として扱われます。
重要なのは、再転相続人が放棄できるのは、
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祖父の相続
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父の相続
をそれぞれ個別に判断できる点です。
つまり、
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祖父の相続のみを放棄し
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父の相続は承継する
という選択も可能です。
「祖父の借金を避けるために、父の財産まで放棄しなければならない」ということにはなりません。
3 熟慮期間(3か月)の起算点に注意
相続放棄は、原則として、
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内
(民法第915条第1項)
に家庭裁判所へ申述する必要があります。
再転相続人の場合、この「起算点」が非常に重要です。
❌ よくある誤解
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祖父が亡くなった日から3か月
⭕ 正しい理解
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父が亡くなったことを知った時から3か月
つまり、再転相続人にとっての熟慮期間は、
祖父の死亡時ではなく、父の死亡時から進行します。
この点は、実務上も裁判所の取扱いが安定しており、現在も変わっていません。
4 申述書の書式と実務対応
相続放棄の申述書は、家庭裁判所の公式サイトから定型様式を入手できます。
しかし、再転相続人専用の申述書様式は存在しません。
そのため、通常の相続放棄申述書を使用しつつ、
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被相続人との続柄
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再転相続に該当する経緯
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父が相続放棄を完了する前に死亡した事実
などを、申述書や事情説明書の中で明確に補足記載する必要があります。
この記載が不十分な場合、裁判所から補正指示が出ることも少なくありません。
5 専門家・家庭裁判所への事前確認の重要性
再転相続人による相続放棄は、制度自体は一般の相続放棄と同様ですが、
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起算点の判断
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戸籍関係の整理
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申述書の記載内容
など、実務的には判断を誤りやすいポイントが複数存在します。
そのため、
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実際に申述書を提出する家庭裁判所へ事前に確認する
ことを強くおすすめします。
特に家庭裁判所の運用は、細部について裁判所ごとに若干の違いが出ることもあるため、
管轄裁判所への直接確認が最も確実です。
6 まとめ
再転相続人による相続放棄は、決して特別な制度ではありませんが、
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法的構造
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期間制限
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書類作成
を正確に理解していないと、取り返しのつかない結果を招く可能性があります。
とはいえ、基本的な流れは通常の相続放棄と変わりません。
必要以上に不安を感じることなく、適切な助言のもとで手続きを進めてください。
