自筆証書遺言の取扱いに関する実務上の注意点
(※平成26年当時の記事を、法改正を踏まえて改訂)
以前、検認済みの自筆証書遺言を金融機関でコピーする際、
外資系銀行の行員が、検認証書と遺言書を綴じているホッチキスを外したという出来事がありました。
結果として、同行の担当課長が同席のうえで正式な謝罪があり、その後の対応についても協議がなされました。
対応自体は丁寧で、かつての「高圧的なバンカー像」とは異なる印象を受けましたが、同様の事態が二度目であったことから、実務者として深く反省する出来事となりました。
実務上、再認識すべき点
本件から、次の点を改めて強く認識しました。
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「自筆証書遺言の検認」の法的意味を正確に理解していない金融機関職員が存在すること
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検認済遺言書・検認調書に綴じられているホッチキスは絶対に外してはならないことを、事前に明確に伝える必要があること
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相手が「金融機関のプロ」であっても、完全に任せきりにしてはいけないということ
まさに、実務者としての備忘録と言える出来事でした。
問題発生までの経緯
実は、問題が発覚する約1時間半前、
担当者に書類を渡してから長時間待たされていました(来店時、他の顧客はいませんでした)。
不安に感じ、
「大変失礼ですが、相続手続のご経験はありますか」と確認したところ、
担当者は語気を強めて
「いつもやっています」
と回答しました。
さらに
「通常、1時間もかかるものでしょうか」
と尋ねると、
「調査が必要なのです」
との説明でした。
その後、事務所内で周囲に質問しながら対応している様子が見受けられ、
最終的にはベテラン行員に交代して手続きが進められました。
結果として、その過程で検認済自筆証書遺言のホッチキスが外されていたことが判明した次第です。
自筆証書遺言は「再発行できない」書類
戸籍謄本や住民票であれば、
仮にホッチキスを外したり、誤って破損したとしても、再取得が可能です。
しかし、
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自筆証書遺言は原本が唯一無二
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再発行は一切できない
という点で、性質が根本的に異なります。
特に、家庭裁判所の検認を経た遺言書は、
検認調書と一体として管理されていることが重要であり、
ホッチキスを外す行為は、書類の同一性・真正性に疑義を生じさせかねません。
実際、本件では、
外された後に無造作に再度ホッチキス留めされたため、
契印が大きくずれてしまう結果となりました。
その後の相続手続や金融機関対応において、
どれほど説明と謝罪に労力を要したかは、言うまでもありません。
法改正後の補足(令和元年以降)
なお、令和元年(2019年)7月の法改正により、
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法務局における
「自筆証書遺言書保管制度」
が創設されました(遺言書保管法)。
この制度を利用した場合、
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家庭裁判所の検認は不要
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原本は法務局で厳格に保管
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金融機関等には「遺言書情報証明書」を提出
という運用となり、
本件のような原本取扱いリスクは大幅に軽減されています。
もっとも、
現在でも「自宅保管の自筆証書遺言」や「過去の遺言」が存在するケースは多く、
依然として注意が必要です。
実務者としての教訓
大きな組織には、さまざまな立場・経験値の人がいます。
本件が例外的なケースであることを願いつつも、
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「ホッチキスは外さないでください」
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「原本の取扱いには細心の注意をお願いします」
と、必ず言葉で明示することの重要性を再認識しました。
そして何より、
同様の説明と謝罪を繰り返す結果となった自らの対応について、
改めて深く反省する出来事となりました。
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