形見分けと相続財産の「処分」にあたるか
「いわゆる形見分けで、亡くなった父の骨董品をもらうことにしたが、これは相続財産になるのか」
このようなご質問を受けることがあります。
この問題は、形見分けが相続財産の「処分」に該当するか否か、という点で整理する必要があります。
相続財産の処分とは
相続開始後、相続人が相続財産を 売却・譲渡・消費・贈与する行為 は、民法上「相続財産の処分」に該当すると解されています。
相続放棄や限定承認を検討している場合、相続財産の処分を行うと、単純承認したものとみなされる(民法921条1号) ため、特に注意が必要です。
形見分けは処分にあたらないのが原則
もっとも、親子・配偶者など近親者間で行われる社会通念上相当な範囲の形見分けについては、
一般に 相続財産の処分には該当しない とされています。
その理由は、形見分けが通常、
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財産的価値の移転を主目的とするものではなく
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被相続人への追悼や情愛に基づく精神的価値の承継
という性質を有するためです。
この点は、実務上も一貫してそのように扱われています。
しかし、高額な物は注意が必要
一方で、「形見分け」と称していても、客観的に高い換金価値を有する物については、
形見分けの範囲を超え、相続財産の処分に該当する可能性があります。
たとえば、
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高額な宝石類
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市場価値の高い骨董品・美術品
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換金性の高い貴金属やブランド品
などは、「情愛的価値」よりも 財産的価値が強く評価される ため、
単なる形見分けとして扱うのは難しい場合があります。
情愛的価値と財産的価値の判断基準
情愛的価値と金銭的価値は本来比較できるものではありませんが、実務上は次のような観点から判断されます。
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市場で客観的な評価額が付くか
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他の相続人から見て財産的価値が明らかか
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相続財産全体に占める割合
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被相続人および相続人の資力状況
たとえば、
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被相続人が趣味で描いた絵画
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個人的な手紙や日記
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使用済みの日用品
などは、第三者にとって財産的価値がほぼなく、
情愛的価値のみが評価される典型例といえるでしょう。
骨董品の場合の実務的な考え方
ご質問の「骨董品」については、特に注意が必要です。
もしそれが いわゆる“お宝”級の価値を有するものであれば、
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他の相続人が黙認しない可能性が高い
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相続税評価の対象となる
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相続分の前渡し(特別受益)や遺産分割上の問題が生じ得る
といった実務上の問題が発生します。
一方で、
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相続財産の総額が基礎控除額(※)の範囲内
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他の相続人全員が了承している
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客観的に見て財産的価値が限定的
という状況であれば、特段の問題が生じないケースも多いでしょう。
※相続税の基礎控除
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数(現行法)
まとめ
形見分けが相続財産の処分に該当するかどうかは、
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物の性質
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客観的な財産価値
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相続財産全体とのバランス
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相続人間の合意状況
などを踏まえ、個別具体的に判断されることになります。
