相続手続きが進まない本当の理由と、「諦める相続」の行き着く先
一般に「相続手続き」と言えば、
相続開始後に行う各種の実務手続きを指します。
代表的なものとしては、次のような手続きが挙げられます。
1.不動産の名義変更(相続登記)
2.金融機関の解約・名義変更(銀行・証券会社等)
3.相続税の申告・納付
これらの手続きは、専門家に依頼することもできますが、
相続人自身が時間をかければ、原則として自ら行うことも可能です。
つまり、相続手続きそのものは、
法的な「問題」がなければ、「時間」が解決する
という性質を持っています。
1 相続手続きの前提となる「相続人全員の合意」
相続手続きにおいて、最も重要なのは
相続人全員の合意です。
遺言書がない場合、遺産は
民法907条に基づく「遺産分割協議」によって分割されます。
この遺産分割協議は、
相続人全員の合意がなければ成立しません。
したがって、合意がある場合は、
手続きは時間の問題にすぎませんが、
合意が得られない場合、相続手続きは事実上ストップします。
2 合意が取れない典型的なケース
実務上、合意が取れないケースには、次のような類型があります。
1.相続人が協力しない
(合意内容には異論がないが、印鑑証明書や署名押印に応じない)
2.相続人間で権利主張が対立している
(分け方に納得できず、協議が成立しない)
3.相続人の所在が不明である
(連絡が取れず、協議そのものが開始できない)
これらの場合、相続手続きができないからといって、
法的に手詰まりになるわけではありません。
3 合意が取れない場合の法的手段
合意が得られない場合には、
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専門家(第三者)による説明・調整
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家庭裁判所における
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遺産分割調停
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遺産分割審判
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といった手段があります(民法907条2項、家事事件手続法)。
これらの制度を利用すれば、
最終的には分割内容が確定します。
ただし、
時間と費用がかかる
という点は避けられません。
その意味では、
ここでも「時間が解決する」と言えなくもありません。
4 実務で見かける「相続を諦める」という選択
実際の相談の中で、少なからず見受けられるのが、
「相続を諦める」
という選択です。
これは、相続放棄(民法915条)とは異なり、
権利はあるが、手続きを行わないという事実上の放置を意味します。
相談者の意向であれば、
やむを得ない判断だと感じる場面も確かにあります。
5 経済合理性から見た「諦める相続」
最も分かりやすい例として、
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相続財産が銀行預金1,000円
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相続人が5人
というケースを考えてみます。
この場合、
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印鑑証明書の取得費用
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郵送費・交通費
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署名押印の手間
を考えると、
実費だけで1,000円を超える可能性もあります。
経済的合理性から見れば、
「諦める」という判断が妥当な場合もあるでしょう。
6 不動産相続における「諦める」の問題点
金融資産であれば放置しても大きな問題は生じませんが、
不動産の場合は事情が異なります。
事務所では、原則として、
不動産はできる限り相続登記を行い、権利関係を明確にすべき
と考えています。
しかし、
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不動産の評価額が極端に低い
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相続人が多数
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実費や手間に見合わない
といった理由から、
登記を行わず「諦める」選択をされる方もいます。
7 放置された不動産が将来どうなるか
相続登記を行わないまま時間が経過すると、
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次の相続が発生し
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相続人がさらに増え
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権利関係が雪だるま式に複雑化
していきます。
結果として、
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売却できない
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担保にもならない
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管理責任だけが残る
という 「負動産」 となるケースが少なくありません。
この問題を背景に、
2024年4月から相続登記が義務化されました
(不動産登記法76条の2以下)。
正当な理由なく相続登記をしない場合、
過料の対象となる可能性もあります。
8 まとめ
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相続手続きは、問題がなければ時間が解決する
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問題の本質は「相続人全員の合意」にある
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経済的合理性から「諦める」選択もあり得る
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しかし、不動産の放置は将来に大きな負担を残す
相続は「今の問題」ではなく、
将来世代へ引き継がれる問題です。
手続きをするか、諦めるか――
その判断こそが、最も慎重に検討すべき「相続手続き」と言えるでしょう。
