相続税申告に関する実務上の注意点
(法的根拠・制度改正を踏まえた解説)
相続税については、「税金がかかるか、かからないか」という基礎控除のライン上にある相続ほど、実務上の判断に悩まれるケースが少なくありません。
もっとも、相続税法上、相続税の申告は、相続税が発生する場合に限って必要であり(相続税法第27条)、基礎控除額の範囲内であれば、申告義務そのものは生じません。
1.相続税の基礎控除(現行制度)
相続税の基礎控除額は、以下の算式で定められています。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
(相続税法第15条)
※平成27年(2015年)1月1日以後の相続から、
それ以前の
「5,000万円+1,000万円×法定相続人」
という控除額が引き下げられました。
この改正により、従来は相続税の申告が不要であった層も、申告対象に該当するケースが大幅に増加しています。
2.相続開始後の実務的な混乱
相続が開始すると、被相続人の死亡に伴う各種手続きが同時多発的に発生します。
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葬儀・法要
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各種名義変更
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相続人調査
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遺産分割協議
精神的な整理がつかない中で、遺産分割協議を先行させ、その後に相続税申告を検討する、という流れになることが一般的です。
そしてこの段階で、
「そもそも申告が必要なのか」
「申告するとしたら、どう計算すればいいのか」
という壁に直面します。
3.相続税申告の難しさ(特に給与所得者の場合)
特に、会社員の方の場合、所得税は年末調整により完結しているため、自ら税額計算・申告を行った経験がほとんどありません。
相続税の計算は、以下の点で非常に複雑です。
(1)財産評価の問題
不動産については、固定資産税評価額ではなく、
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土地:路線価方式または倍率方式
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建物:固定資産税評価額
により評価します(財産評価基本通達)。
路線価は国税庁HPで公開されていますが、
評価減(奥行価格補正、不整形地補正、借地権割合等)を考慮すると、単純計算では済みません。
(2)各種特例・控除
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小規模宅地等の特例(相続税法第69条の4)
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配偶者の税額軽減(相続税法第19条の2)
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借地権・貸家建付地の評価減
これらを正確に適用しないと、税額が大きく変わる可能性があります。
4.期限後申告のリスク
相続税の申告・納付期限は、
相続開始を知った日の翌日から10か月以内
(相続税法第27条)
です。
基礎控除ライン上の方ほど、
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申告が必要か判断できない
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計算が難しく後回しになる
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税理士報酬が高額に感じられる
といった事情から、悪意なく期限を徒過してしまうケースが見受けられます。
期限後申告となると、
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無申告加算税
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延滞税
といった附帯税が課される可能性があります。
5.「税務署は把握していないだろう」という誤解
「すべての相続について、税務署が把握しているわけではないのではないか」
と考えてしまう方もいますが、
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不動産の名義変更
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金融機関からの支払調書
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生命保険金の支払記録
などから、事後的に把握されるケースは少なくありません。
結果として、数年後に指摘を受けることも現実にあります。
6.視点
基礎控除引下げ以降、
「申告が必要かどうか判断できない層」が急増しました。
相続税申告については、
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簡易的な判定基準の明示
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一定範囲までの標準化された計算方法
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早期相談を促す制度設計
が、今後ますます求められる分野といえます。
相続税は、悪意の有無にかかわらず、期限と手続が厳格に適用される税目です。
迷った段階で、税理士へ早期相談することが、結果的に最も負担を軽減する方法といえるでしょう。
