遺言と臓器提供・献体の意思表示について
近年は、臓器提供意思表示カードや運転免許証・マイナンバーカードへの意思表示欄を利用し、
死後に自らの臓器を提供する意思を明確に示すことが可能となっています。
このため、
「遺言書に書いておけば、臓器提供や献体も法的に実現できるのではないか」
と誤解される方も少なくありません。
しかし、遺言による臓器提供・献体の意思表示には、法律上の拘束力はありません。
遺言における臓器提供・献体の位置づけ
遺言は、民法上、
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財産の処分
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身分行為(認知など)
といった事項についてのみ、法的効力を持ちます。
一方で、
臓器提供や献体は、民法上の遺言事項ではなく、遺言によって直接強制できるものではありません。
そのため、遺言書にこれらを記載する場合は、
「遺言の付言事項(付言条項)」として、遺志を表明するにとどまります。
付言事項は、
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法的拘束力はない
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しかし、遺族や関係者の判断に大きな影響を与える
という性質を持つものです。
実務で用いられる「献体提供陳述公正証書」
実務上は、
公正証書遺言の中に書き込むのではなく、別途、公証人の面前で意思を陳述し、
その事実を公正証書として残す方法が多く用いられています。
これが、いわゆる
**「私権事実実験公正証書(献体提供陳述公正証書)」**です。
私権事実実験公正証書とは
私権事実実験公正証書とは、
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私人の法律関係(私権)の得喪や内容に
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直接影響を及ぼす事実
について、その存在を証明するために作成される公正証書です。
献体・臓器提供の意思表示は、本人の死後の処遇に関する重要な事実であり、
この「私権事実」に該当すると整理されています。
この公正証書は、
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本人が生前に明確な意思を表明していたこと
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その意思が自由な判断に基づくものであったこと
を、強力な証拠として残す役割を果たします。
献体にあたって実務上検討すべき事項
献体を希望する場合、実務的には、以下の点を整理しておくことが望ましいとされています。
① 献体先の指定
多くの場合、
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大学医学部
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医科大学
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研究機関
など、「どこに献体するのか」を事前に定めます。
※ 法律上の絶対要件ではありませんが、指定しておく方が手続きは円滑です。
② 必要書類への対応
献体には通常、
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解剖承諾書
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死体保存承諾書
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引渡しに関する同意書
などへの署名・押印が必要となります。
そのため、
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誰がこれらの書類に署名・押印するのか
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連絡窓口となる親族は誰か
を、あらかじめ決めておくことが重要です。
③ 親族の理解と承諾
献体は、
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葬儀の時期
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遺骨の返還方法
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葬送の形式
などにも影響を及ぼします。
そのため、法律上の義務はなくとも、身近な親族の理解と承諾を得ておくことが、極めて重要です。
実務上、親族の同意が得られず、献体が実現しないケースも少なくありません。
まとめ ― 遺志を確実に伝えるために
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遺言による臓器提供・献体の指定には 法的拘束力はない
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遺言では 付言事項として意思を示すにとどまる
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実務上は 献体提供陳述公正証書を作成するケースが多い
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親族への事前説明と同意が、実現の可否を左右する
献体や臓器提供は、
法律の問題であると同時に、家族・倫理・実務の問題でもあります。
