検認済自筆証書遺言と金融機関実務の現実
―法的根拠と実務対応上の注意点―
金融機関にはそれぞれ内部規程が存在しますが、
検認済みの自筆証書遺言の取扱いについて、金融機関ごとに対応が大きく異なるという点は、実務上、注意を要します。
今回、検認済み自筆証書遺言の提出にもかかわらず、金融機関側から一方的に「手続不可」とされ、その理由について明確な説明がなされない事例に遭遇しました。
相続担当部署へ取り次いでもらうまでにも相当な時間を要し、ようやく説明を受けた内容は次のようなものでした。
「検認は確認しているが、検認手続の際に、他の相続人から異議が出ていないかを確認する必要がある。そのため、検認調書の提出が必要である」
との説明でした。
検認の法的性質と金融機関の誤解
ここで整理しておく必要があります。
民法上、家庭裁判所による「検認」(民法1004条)は、
・遺言書の存在・内容を明確にし
・偽造・変造を防止するための証拠保全手続
に過ぎず、
遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
したがって、
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検認に反対する、という制度自体は存在せず
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相続人が異議を述べたとしても、それは別途、遺言無効確認訴訟等で争われるべき問題
であり、
検認済みである以上、遺言の執行を一律に拒む法的根拠はありません。
質問として、
「仮に相続人が10人いて、そのうち1人が異議を述べていた場合は?」
と確認したところ、
「その場合は、相続人全員の同意による通常の相続手続になります」
との回答でしたが、
これは法律論としては必ずしも正確とは言えません。
遺言が有効に成立している以上、
原則として、遺言の内容に従って相続手続を進めるべきであり、
単に異議があるという理由だけで、遺言の効力が停止することはありません。
実務上の現実と金融機関対応のバラつき
もっとも、実務の現場では、
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金融機関独自の内部規程
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紛争リスクを極度に回避しようとする運用
により、
法律上は不要と思われる追加書類(検認調書等)を求められるケースが存在します。
今回も、他の銀行・信用金庫・証券会社・信託銀行では問題なく手続が完了しており、
最後の金融機関のみで足止めされる結果となりました。
結果的には追加書類なしで手続は認められましたが、
金融機関ごとに実務対応が異なる現実を改めて痛感させられる事例でした。
2019年以降の制度改正との関係
なお、2019年(令和元年)には、
法務局による自筆証書遺言の保管制度が創設されました。
この制度を利用した自筆証書遺言については、
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家庭裁判所の検認が不要
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金融機関実務においても、公正証書遺言に近い取扱い
となるのが一般的です。
結論:実務上の「安心」をどう確保するか
遺言書を作成する目的の一つは、
相続手続の円滑化・利便性の確保にあります。
しかし、自筆証書遺言は、
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内容が法的に完璧であっても
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金融機関によっては、想定外の対応を受ける可能性がある
という実務上のリスクが残ります。
そのため、
確実性・実務対応の統一性を重視する場合には、公正証書遺言が依然として最も安心な方法
であるといえるでしょう。
法的有効性と、実務上の運用は必ずしも一致しない――
この点を踏まえた上で、遺言書の形式を選択することが重要です。
