相続税立替融資サービスについて思うこと
― 便利さの裏側と、制度としての位置づけ ―
相続税を「立て替えてもらえる」サービスは、確かに実務上は便利な制度です。
しかし、冷静に制度の仕組みを見てみると、どこか違和感を覚える方も少なくありません。
1 相続税立替融資サービスの概要
たとえば、次のようなサービスが提供されています。
相続税立替融資サービスの開始
(住友不動産販売・三井住友銀行)
2013年8月
このサービスは、不動産の売却を前提として、
相続税の納付資金を一時的に金融機関が立て替えるというものです。
一般的な利用条件としては、
1.融資実行時に20歳以上であること
2.指定された金融機関に口座を開設すること
3.金融機関および不動産会社の審査基準を満たすこと
などが挙げられます。
2 このサービスの本質は「税金の立替払い」
この種のサービスの本質は、
相続税そのものの軽減ではなく、納付資金の立替です。
構造を簡略化すると、
日本銀行 → 銀行 → 立替融資 → 相続税納付 → 国庫
という流れになります。
銀行は極めて低い調達金利で資金を調達し、
利用者は 相続税+民間金融機関の利息 を負担します。
結果として、
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相続人:税金+利息を負担
-
国:期限内に相続税を回収
-
銀行:利息収入を確保
という構図になります。
3 「困っている人ほど利用せざるを得ない」現実
このサービスは、
-
不動産はある
-
しかし現金がない
という相続人にとっては、確かに実務上「助かる」制度です。
一方で、
相続税を払うために、さらに借金をする
という点に、心理的な抵抗や違和感を覚える方も少なくありません。
もちろん、銀行業務の本質は融資であり、
このサービス自体が不当なものだとは言えません。
ただし、
「選択肢がそれしかない状況」で利用されているケースが多い
という点は、冷静に認識しておく必要があります。
4 国の制度としての納税猶予・延納との違い
なお、相続税については、すでに法律上、
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延納制度(相続税法38条以下)
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物納制度(同41条以下)
が設けられています。
特に延納制度では、
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一定の要件を満たせば
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国に対して分割払いが認められ
-
利子税も法定利率に基づく
という仕組みがあります。
しかし実務上は、
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要件が厳しい
-
担保が必要
-
手続きが煩雑
といった理由から、
民間金融機関の立替融資の方が「使いやすい」
という現実があります。
5 「相続税は分割払いできない」という誤解
相続相談の現場では、
相続税は一括で払うしかない
という誤解が、いまだに根強く見られます。
正確には、
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原則:一括納付
-
例外:延納・物納が可能
です。
立替融資サービスは、
この「原則」に対応する民間サービスであり、
国の制度を補完する位置づけと考えるのが適切でしょう。
6 注意点
相続税立替融資サービスを利用する際には、
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延納・物納の適用可能性を検討したか
-
不動産売却のタイミングと税負担の関係
-
利息を含めた総負担額
を、事前に十分検討する必要があります。
「便利だから」「急いでいるから」という理由だけで選択すると、
結果的に相続人の負担が大きくなることもあります。
7 まとめ
相続税立替融資サービスは、
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適切に使えば有効な資金調達手段
-
しかし、税負担そのものを軽減する制度ではない
という点を理解することが重要です。
相続税については、
税制・納付方法・資金調達をセットで考える
ことが、後悔しない相続への第一歩となります。
※ 本記事は、制度の問題点を指摘する趣旨であり、特定の企業や金融機関を批判するものではありません。
