遺産分割と「実印・印鑑証明書」に戸惑う方が多い理由
― 突然の押印依頼が相続トラブルの火種になることも ―
事務所でよくいただくご相談の一つに、
「突然、実印と印鑑証明書が必要だと言われ、戸惑っている」
というものがあります。
相続手続に不慣れな方にとって、
「なぜ実印なのか」
「なぜ印鑑証明書まで必要なのか」
という点が分からないまま話が進むことは、強い不安を生みます。
遺産分割には「実印+印鑑証明書」が原則必要
遺言書がない場合、相続財産は 遺産分割協議 によって分けることになります。
この遺産分割協議は、
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相続人全員の合意が必要
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合意の内容を書面化したものが
遺産分割協議書
となります。
そして、この協議書には、
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相続人全員の署名
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実印による押印
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各人の印鑑証明書の添付
が、実務上必須とされています。
これは法律上、
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遺産分割は相続人全員の「協議」によって成立する行為であり
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実印の押印は、その協議内容に真に同意した意思表示である
ことを明確にするためです。
なぜ戸惑いが生じるのか ―「何を協議するのか」が見えていない
戸惑いが生じる最大の理由は、
「何を協議するのか」が説明されていないまま、書類だけが送られてくる
点にあります。
書類を送る側からすれば、
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銀行や郵便局の解約書類
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不動産の名義変更に必要な書類
といった「事務手続」の一環という感覚かもしれません。
しかし、受け取る側からすれば、
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どのような相続財産があるのか
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その財産をどのように分けるのか
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なぜ自分はその内容に同意する必要があるのか
が分からないまま、
「実印を押して、印鑑証明書を添付してください」
と言われることになります。
これは、通常の取引関係であれば、まず起こり得ない状況です。
親族間だからこそ起こる「説明不足」という問題
相続は親族間の手続であるため、
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「法律どおりだから問題にならないだろう」
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「身内なのだから、細かい説明は不要だろう」
といった、無意識の甘えが生じやすい分野でもあります。
しかし、突然書類を受け取った側にとっては、
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内容が分からない
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説明もない
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それでも実印を求められる
という状況は、強い不信感を生みます。
この不信感こそが、
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本来、揉める必要のなかった相続を
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「揉める相続」へと変えてしまう最大の要因
となります。
「当然もらえる」という誤解が対立を生むことも
また、相続人の中には、
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自分が財産をもらって当然
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他の相続人は形式的に署名するだけ
と考えているケースも見受けられます。
しかし、相続は法律に基づく権利関係であり、
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法定相続分
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特別受益
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寄与分
などを考慮したうえで、全員が合意して初めて成立します。
「当然」という思い込みがあるほど、
説明不足や手続の進め方次第で、深刻な対立に発展することも少なくありません。
