遺言・相続における保険金の取扱いについて
(法的性質と実務上の注意点)
遺言書の作成時、また実際に相続が発生した場面において、生命保険金の取扱いについてのご質問は非常に多く寄せられます。
生命保険は、民法ではなく保険法(平成20年法律第56号)が適用される契約であり、相続財産とは法的性質を異にする財産である点を理解しておくことが重要です。
1.生命保険契約の基本構造
生命保険契約では、以下の三者が明確に区別されます。
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契約者
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被保険者
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保険金受取人
特に重要なのが、保険金受取人を契約時に指定できるという点です(保険法第42条、第43条)。
この点が、預貯金などの一般的な金融資産との決定的な違いとなります。
2.遺言書と保険金の関係
(1)預貯金の場合
預貯金は、口座契約上「受取人」を指定する制度がないため、
「預貯金○○銀行○○支店の普通預金を妻に相続させる」
といった形で、遺言による承継指定が可能です。
(2)生命保険の場合
これに対し、生命保険では、契約時に保険金受取人を指定できるため、
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原則として
遺言書に記載する必要はありません
保険金を妻に取得させたいのであれば、保険契約において受取人を妻と指定することが最優先となります。
※遺言で保険金について言及しても、原則として保険契約の受取人指定が優先されます(保険法の趣旨)。
3.保険金は相続財産か?
「生命保険金は相続財産に含まれますか?」
という質問も頻繁に受けますが、結論は以下のとおりです。
保険金受取人が被相続人以外に指定されている場合、
その保険金は相続財産には含まれません。
これは、最高裁判例および実務上も確立した考え方です。
理由
保険金請求権は、
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被保険者の死亡という保険事故の発生により
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受取人固有の権利として
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直接発生する
ものであり、被相続人の財産として一旦帰属するものではないためです。
4.遺産分割との関係
そのため、原則として、
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遺産分割協議の対象とならず
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他の相続人の同意も不要で
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単独で受領することが可能
となります。
※もっとも、
保険金額が著しく高額で、
他の相続人との公平を著しく害する場合には、
特別受益に準じた持戻しの問題が争われる可能性はあります
(判例・実務上の例外的取扱い)。
5.相続税との関係(誤解しやすい点)
なお、
「相続財産ではない=相続税がかからない」
というわけではありません。
生命保険金は、
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相続税法上は「みなし相続財産」
(相続税法第3条)
として課税対象となります。
ただし、
500万円 × 法定相続人の数
という非課税枠が設けられています(相続税法第12条)。
6.実務上の注意点
現在、
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保険金受取人が未指定
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「被保険者=受取人」となっている
といった契約内容のまま放置されているケースも少なくありません。
この場合、保険金は被相続人の相続財産となり、
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遺産分割協議の対象
-
相続人間の紛争要因
となる可能性があります。
その意味で、
保険金の受取人指定は、生前対策として極めて有効であり、
早期の確認・見直しを強くお勧めします。
まとめ
生命保険は、
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相続対策
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遺産分割対策
-
納税資金対策
のいずれにおいても有効な制度ですが、
法的性質を正確に理解せずに利用すると、かえってトラブルの原因となります。
遺言書作成時には、
「遺言で何を書くべきか」だけでなく、
「遺言に書く必要のない財産が何か」
を整理することが、実務上きわめて重要です。
