一番親しい人が損をする相続

相続実務から見える現実と、法律で救えること・救えないこと

相続実務に携わっていると、強く感じることがあります。
それは、必ずしも声の大きい人や主張の強い人が苦労するわけではなく、むしろ一番身近で、親身に関わってきた人ほど負担を抱えやすいという現実です。

1 「世話をした人が報われる」とは限らない相続の現実

相続人が複数いる場合、

  • 生前の介護

  • 通院の付き添い

  • 日常生活の支援

などを、特定の相続人が担ってきたにもかかわらず、
相続分は法定相続分どおり、というケースは珍しくありません。

「一番お世話になった人に、きちんと報いることができるのか」
これは、多くのご家族が抱く自然な疑問ですが、法律は必ずしも感情に沿って設計されているわけではありません。

2 葬儀費用は「相続財産」ではない

実務上、誤解が非常に多いのが葬儀費用の取扱いです。

葬儀費用は、

  • 被相続人死亡後に発生する支出であり

  • 原則として「相続財産」には含まれません

そのため、

  • 長男が葬儀費用を全額負担した

  • 次男に半額の負担を求めたが、拒否された

という場合でも、法律上、当然に請求できるとは限らないのが現実です。

※実務では、遺産から葬儀費用を支出する合意がある場合もありますが、
それはあくまで相続人間の合意が前提です。

3 遺品整理や各種手続に「報酬」は発生しない

相続開始後には、

  • 遺品整理

  • 官公署・金融機関での手続

  • 時間と労力を要する事務作業

が数多く発生します。

しかし、これらの行為についても、

「頑張ったから報われる」
「多く動いたから多くもらえる」

という制度は、原則として存在しません。

むしろ実務では、

  • 「現金はこれだけしか残っていなかったのか」

  • 「通帳はこれだけか」

といった疑念を向けられ、精神的に消耗する方も少なくありません。

4 寄与分・特別寄与料という制度の限界

こうした不公平感を是正するため、民法には、

  • 寄与分(民法904条の2)

  • 特別寄与料(民法1050条、2019年施行)

といった制度が設けられています。

しかし、実務上は、

  • 要件の立証が難しい

  • 金額が期待ほど認められない

  • 相続人間の対立が激化しやすい

など、万能な救済制度とは言えません。

5 「遺言書を書けばすべて解決」ではない

多くの書籍やメディアでは、

「結局は遺言書で対応すべき」

と語られます。

確かに、遺言書は極めて重要な対策ですし、
遺言信託や生前贈与と組み合わせることで、一定の調整は可能です。

しかし、実務を踏まえれば明らかなように、
100%すべての相続人が満足する遺言書を作成することは不可能です。

「介護をしてくれたから」
「病院に何度も付き添ってくれたから」

という理由は、関与していなかった相続人にとっては、必ずしも納得できる理由とは限らないのが現実です。

6 法律でできることには限界がある

相続対策としてできることは、

  • 遺言書の作成

  • 生前贈与

  • 家族信託等の制度設計

など、ある意味「限られた選択肢」しかありません。

やるべきことは明確ですが、
それでもすべての感情的対立を防ぐことはできないのです。

7 専門家として、あえてお伝えしたいこと

法律的な対策は、当然として行うべきです。
しかし、それだけでは足りない、と実務を通じて感じます。

元気なうちに、

  • 感謝を言葉や形で伝える

  • 世話になった人へ、早めに報いる

  • 身近な配偶者・親族・近隣の方を大切にする

こうした日常の積み重ねこそが、
結果として最も大きな「相続対策」になることも少なくありません。

8 まとめ

相続は、法律だけで割り切れるものではありません。
しかし、感情だけで解決できるものでもありません。

法律で整えるべき部分は、専門家の関与のもとで確実に整え、
それ以外の部分は、生前の関係性で補う。

それが、相続実務の現場から見える、現実的な結論です。

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