アパートの遺産分割

相続における不動産共有の可否と遺産分割協議書作成上の注意点

1 不動産の「共有」は原則として慎重に判断すべき

一般論として、相続により不動産を共有とすることは、積極的に推奨される方法ではありません。

その理由は、

  • 将来、共有者間で感情的対立が生じる可能性

  • 使用・管理・処分に関する意思決定が複雑化する

  • 相続が次世代へ進むことで、権利関係がさらに細分化する

など、時間の経過とともに紛争リスクが高まる点にあります。

2 それでも共有が合理的となるケース

もっとも、実務上は、次のような事情から共有以外の方法が現実的でないケースも存在します。

  • 単独所有とするだけの代償金を用意できない

  • 現物分割・代償分割が困難

  • 換価分割(売却)を避けたい合理的理由がある

  • 相続人間に感情的対立がなく、管理運営について合意がある

このような場合には、共有も一つの選択肢となります。

3 収益不動産(アパート等)を共有する場合の実務的注意点

相続実務でよく見られるのが、賃貸アパート等の収益不動産を共有するケースです。

この場合、遺産分割協議書の作成にあたって、共有物に関する民法の規定を正確に理解しておく必要があります。

特に重要なのが、**民法第252条(共有物の管理)**です
※令和2年(2020年)4月施行の改正民法を反映しています。

(共有物の管理)民法252条
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
ただし、保存行為は、各共有者が単独で行うことができる。

これを前提に、実務上の整理を行うと、以下のようになります。

4 共有物に関する行為の類型と判断基準

(1)保存行為

例:建物の修繕、雨漏り補修、緊急対応など

  • 各共有者が単独で行うことが可能

  • 他の共有者の同意は不要

アパートの維持に必要な修繕等は、原則として保存行為に該当します。

(2)管理行為

例:使用方法の決定、賃貸借契約の解除・更新など

  • 持分価格の過半数による決定が必要

  • 共有者全員の同意は不要

賃貸経営に関する日常的な意思決定は、通常この「管理行為」に該当します。

(3)変更行為(参考)

例:建物の建替え、大規模な用途変更など

  • 共有者全員の同意が必要

  • 実務上は争点となりやすい部分

※2014年当時の記事では、この区別が曖昧になりがちでしたが、現在は明確に整理されています。

5 管理会社との関係・共有者間の内部ルール

実務上、アパート管理は管理会社に委託するケースが大半ですが、

  • 管理費用の負担割合

  • 修繕の決定権限

  • 収益の分配方法

など、共有者間の内部ルールは、民法だけでは整理しきれません。

そのため、当事務所では、

  • 遺産分割協議書とは別に

  • 共有者間の「合意書」や「覚書」を作成

することで、運営上のトラブルを防止する対応を取ることがあります。

6 共有物分割請求と「不分割特約」の重要性

共有不動産について、見落とされがちな重要ポイントが、
共有物分割請求権の存在です(民法256条)。

相続により不動産を共有した場合でも、各共有者は原則として、

いつでも共有物分割請求をすることができる

とされています。

つまり、せっかく遺産分割協議書で共有と定めても、
後日、共有者の一人が分割請求を行えば、その前提が崩れる可能性があるのです。

7 不分割の合意は「必須」と考えるべき

そこで重要になるのが、**共有物不分割の合意(不分割特約)**です。

  • 不分割の合意は5年以内の期間であれば有効

  • 合意期間満了後、更新することも可能

(民法256条)

実務上は、

  • 遺産分割協議書の中に明記する

  • または別途「不分割合意書」を作成する

方法が一般的です。

当事務所では、収益不動産を共有とする場合、不分割特約を必ず設けることを原則としています。

8 まとめ

アパート等の収益不動産が遺産分割の対象となる場合、

  • 民法上の共有ルール

  • 管理・変更・保存行為の区別

  • 共有物分割請求のリスク

を正確に理解したうえで、遺産分割協議書を作成することが不可欠です。

「とりあえず共有にしておく」という判断は、
将来の紛争の種を残すことにもなりかねません。

専門家の関与のもと、法的に意味のある共有設計を行うことが重要です。