離婚と相続の関係について(実務上よくある誤解と注意点)
相続の相談の中には、件数としては多くないものの、**毎年必ず一定数発生するのが「離婚が関係する相続」**です。
特に、被相続人の前婚・再婚・内縁関係などが絡む場合、法的整理が不可欠となります。
1 離婚した配偶者に相続権はない
婚姻関係が離婚により解消されると、元配偶者は**法律上「他人」**となります。
そのため、
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元夫
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元妻
いずれについても、相手方が死亡しても相続権は一切ありません(民法第890条)。
これは、離婚原因や有責性の有無にかかわらず、例外はありません。
2 離婚しても「子」は当然に相続人となる
一方で、離婚の有無にかかわらず、子は常に被相続人の相続人となります(民法第887条)。
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親権の所在
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監護状況
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同居・別居
いずれも相続権の有無には影響しません。
そのため、実務上は、
「離婚後、母が親権者として子を育てているケース」
において、将来の相続を意識した相談が寄せられることがあります。
3 元配偶者の財産が「子に相続されるのか」という不安
相続相談の雑談の中で、
「元夫が遺言書で、愛人に全部相続させてしまったら困る」
といった、冗談とも本気とも取れる話を耳にすることがあります。
しかし、ここで重要なのは次の点です。
(1)子には「遺留分」がある
被相続人が遺言書で第三者(愛人等)に全財産を遺贈した場合でも、
子は遺留分権利者となります(民法第1042条)。
したがって、一定割合については
遺留分侵害額請求を行うことが可能です。
※ただし、遺留分は「自動的にもらえる権利」ではなく、
権利行使が必要である点に注意が必要です。
(2)遺留分請求には時効がある
遺留分侵害額請求権は、
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相続開始および侵害を知った時から 1年
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相続開始から 10年
で消滅します(民法第1048条)。
そのため、相続開始の事実を知らなければ、権利行使自体ができないという問題が生じます。
4 「元配偶者の死亡をどうやって知るのか」という現実的問題
実務でよく質問されるのが、
「元夫(元妻)が亡くなったことを、どうやって知ればいいのか」
という点です。
結論から言えば、法律上、相続開始を通知する義務はありません。
そのため、
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養育費の支払い
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定期的な面会交流
などの継続的な関係がなければ、死亡の事実を知るきっかけがないのが実情です。
5 戸籍による確認という方法と限界
理論上は、子が相続人である以上、子の戸籍を辿ることで被相続人の死亡を確認することは可能です。
しかし、
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定期的に戸籍を取得する必要がある
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実務的・心理的な負担が大きい
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現実的に継続されることは稀
という問題があります。
6 遺言書がある場合の注意点(公正証書遺言)
被相続人が公正証書遺言を作成している場合、
相続人への事前連絡なしに、
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遺言執行
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不動産の名義変更
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預貯金の解約
が進められることがあります。
この場合、相続人が相続開始を知った時点では、
すでに財産処分が完了しているケースも少なくありません。
7 借金の場合は連絡が来るが、それも万能ではない
被相続人に借金がある場合、債権者から相続人に対して連絡が来ることがあります。
ただし、
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すべての債権者が把握しているとは限らない
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少額債権では連絡が来ないこともある
ため、必ずしも相続開始を知る保証にはなりません。
なお、借金が判明した場合は、
**相続放棄(3か月以内)**を検討することになります(民法第915条)。
まとめ
離婚後の相続においては、
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元配偶者には相続権がない
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子の相続権・遺留分は強く保護されている
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しかし「相続開始を知ること」自体が最大の障壁
となるケースが少なくありません。
